八日目の蝉
角田(かくた)光代:著/中央公論新社
とにかく、良かったです。
何が?・・・まず、文章とその運びでしょうか。ページ稼ぎための無駄な文章がありません。
情景や人物の心情にリアリティがあって、ノンフィクションかと思ってしまいますが、「読売新聞」夕刊の新聞小説です。
角田さんの本、初めて読みましたが、もっといろいろ読みたくなりました。
0章・・・4ページだけの章では、ほんのちょっとした事から起きてしまう赤ちゃん誘拐事件。
1章・・・誘拐の日から、犯人が捕まるまでの逃亡生活(1985年2月3日~1988年9月19日)
2章・・・成人した被害者の生活、事件の影響など心情や回想・・・と、希望の見えるラスト。
と、3章に分けて書いてありますが、最後まで物語がどう決着するのか、もう夢中でした。
「家族、結婚といった社会制度や血縁を超える、人と人とのつながりを描いてみたい」との角田さんの思いは確実に読み取れました。
不倫相手の妻に生まれた赤ん坊を誘拐するところから始まる物語。
母ではないが、子供とどこまでも生きて行こうと逃亡生活を送る1章。
成長し、かつて自分をさらった女性をなぞるかのような人生を送る娘を描いた2章。
蝉は地上に出てから、たった七日で命を終えてしまう といいます。
七日で死ぬより、八日目に生き残った蝉の方がかなしいか。
八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものも見られると思うか。
簡単に答えられることではありませんし、血の繋がリだけが大切とも言い切ることは出来ません。
数年ぶりに我が子が戻ってきても、被害者の両親は戸惑うばかり・・・
事件の原因がそうさせるのでしょう。
読みなが ら、私はずっと誘拐犯:希和子を応援していました。
彼女のしたことは確かに犯罪でも彼女と子供の幸せを願っていたのです。
ごく普通に生きることすらできなかった彼女・・・。
爽やかで逞しさを感じさせるラストは、素敵ですし、救われます。良い終わり方・・・
難を言ってよければ・・・設定に納得がいかないところがあります。
被害者の母親は毎朝20分間、赤ん坊を置いたまま鍵をかけないで家を留守にします。私なら、たとえ5分でも施錠すると思います。
by kosuzume2
| 2008-04-21 21:48
| 本